2012年11月28日水曜日

スペインについて

アフリカから中米へと移動して旅を続けることにした。
一番安い飛行機を探したらスペイン経由だったので、どうせなら、と、スペインで1週間過ごしている。

物価が高いので、お金のかかる観光は極力避けてひたすらに街を歩き回っている。街の至る所にベンチがあるから、歩くのに疲れたらそこへ腰をおろしてアフリカで買った煙草を吸う。すると結構な確率で「1本くれ」と誰かがやって来る。「いいよ。これ、アフリカで買ったんだ。1箱1ユーロくらい。安いでしょ?」そう言って煙草を1本手渡す。「へえ、安いねえ。」と、だいたいみんな驚いてくれる。そこですかさず「Africa is good place to get cancer.(アフリカは癌になるにはもってこいさ!)」と、自分でも全然おもしろいと思えないジョークを言ってみる。しかしみんな気を遣ってくれているのか、思いのほか笑ってくれる。これを暇つぶしに幾度となく繰り返す。一度、かなり可愛い20歳前後の女の子が煙草を欲しがったので全身全霊でこのジョークを言ってみたのだが、どうやら彼女は英語がイマイチだったようで、苦笑いだった。

女の子と言えば、スペインの女性はすごく綺麗だ。高級ファッションブランドの広告写真に写っていそうな人が普通に歩いている。アフリカに慣れてしまっていたので、しばしば自分の眼を疑う。こんな美人が実際に存在していていいのか?と。こんな言い方をすると、まるでアフリカの女性は女性的魅力に欠けているとでも言いたげな印象を与えてしまいそうだが、全くその通りなのである。(もちろん、あくまで、個人的な意見だけど。)

追い打ちをかけるように、スペインの飯は圧倒的に美味い。「バル」と呼ばれる飲み屋がそこら中にあって、「タパス」という、いわば酒に合う一品料理を提供している。ちょうど、日本の''回らない寿司屋''のような感じで、カウンター席のガラスケースにタパスがずらりと並んでいる。嬉しいのは、その種類の多さだ。生ハム、アンチョビ、オリーブ、チーズ、イカのフライ、エビのソテー、マッシュルームのグリル・・・。他にもたくさんあって、全部を制覇しようとするにはお金がとても足りなさそうだ。もちろんただ種類が多いだけではなく、どれを選んでも外れが無い。すべて美味い。

アフリカの食事についてはまた他の記事で詳しく書くことにするが、残念ながらスペインと比べると遥かにシンプルな味付けで、そのバリエーションも少ない。決して不味いというようなことはなく、それなりに、少なくとも文句は言わずにずっと食ってきたのだが、やはりスペインの料理を食べた時には嬉しいギャップを感じずにいられなかった。

今回は時間が限られていたので、バルセロナとマドリッドの2都市だけしか訪れることができなかった。次に再びスペインを訪れたら、ぜひ田舎の方にも行ってみたい。フラメンコや闘牛も、次回のお楽しみだ。そして、できれば次回は一人じゃなく誰かと一緒に来たい(笑)

まあ、そんなわけで、また会う日まで!アディオス!エスパーニャ!


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2012年11月26日月曜日

マヤへ

アメリカ合衆国のイエローストーン国立公園には、公園の面積に匹敵する(8,980平方km)超巨大なマグマ溜まりが存在することが確認されている。約220万年前、約130万年前、約64万年前の計3回破局噴火を起こしており、現在貯留している9,000立方kmのマグマ溜まりが噴出した際には、人類の存亡の危機となることが予想されている。そして噴火の周期は約60万年であり、既に最後の噴火から64万年経過している。イエローストーン公園では地震が活発化しており、21世紀初頭の10年間で公園全体が10cm以上隆起し、池が干上がったり、噴気が活発化するなど危険な兆候が観察され、新たに立ち入り禁止区域を設置したり、観測機器を増設したりしている。アメリカ地方紙デンバーポスト(英語版)は、米国地質監査局のリーズ地質科学者が、イエローストーン公園内の湖の底で高さ30m以上、直径600m以上の巨大な隆起を発見したと伝えている。 イギリスの科学者によるシミュレーションでは、もしイエローストーン国立公園の破局噴火が起きた場合、3〜4日内に大量の火山灰がヨーロッパ大陸に着き、米国の75%の土地の環境が変わり、火山から半径1,000km以内に住む90%の人が火山灰で窒息死し、地球の年平均気温は10度下がり、その寒冷気候は6年から10年間続くとされている。
(Wikipediaから)


イエローストーンの火山噴火、というと、映画「2012」を思い出す。これはマヤ文明の「2012年世界終末説」をベースとした映画だ。マヤ文明のカレンダーには大きなサイクルがあって、1つのサイクルはだいたい5200年間くらいの長さなのだが、今回のサイクルが2012年12月21日に終わる。その日に、世界は終わりを迎えるというのだ。「マヤ文明の人々が『その日に世界が終わります』という明確な予言を残した訳ではない。」との主張もあるようなので、「マヤの予言」と呼ぶべきかどうかは微妙なところであるが、とにかく世間的には「マヤの予言」としてオカルト的な話題となっている。日本の民放TVが騒ぎ立てているだけなのかと思いきや、調べてみるとどうやら全世界的にかなり話題になっているようだ。

俺はこういうオカルト的な話が割に好きである。完全に信じきっている訳ではないので「どうせ世界は終わることだし」という理由で突飛な行動に出たりはしないが、それでもイエローストーンのような話を聞くと少しワクワクする。でもやっぱり本当に世界が滅亡してしまうというのは困るわけだから、そういう類の話を聞いてワクワクするということは、やはりどこか半分嘘と思っているのだろう。まあしかしとにかく、前々からマヤの話には少なからずの興味を持っていたのだ。

ここからが本題。
実はアフリカで出逢ったある旅人から、こんな話を聞いたのだ。

「2012年12月21日、メキシコ・グラテマラにかけて点在するマヤ文明の遺跡。マヤの暦が終わる瞬間、そこにいる人は異次元の世界に飛べるらしいよ。」

みなさん、こんなに面白いことが他にあるだろうか。''異次元の世界に飛べる''というのである。この世界には面白いことがきっとたくさんあるはずだが、ちょっとこれ以上のものは俺の知る限り思いつかない。「んなわけあるかい、アホな。」と思う人もいると思うけれど、俺もそう思う。こんなアホな話は他にない。だって何の具体的根拠も無しに「地球が滅亡する」などと騒いでいるのだ。「地球」が、「滅亡」するのだ。その上に、なんと「異次元」に行けると言う。もはや形而上学的にスケールがでかい。これ以上にスケールのでかい話題は他に無い。

これは、行くしか無いだろう。
これこそまさに「またとないチャンス」というやつだ。
というわけで、今俺はメキシコを目指して旅している。


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2012年11月23日金曜日

アフリカOUTの飛行機で

アフリカを約3ヶ月間、旅した。

アフリカ最後の街、ケープタウンの空港を離陸した飛行機の中でのこと。映画を見たりする画面を操作するリモコンがあるのだが、それが元の位置から外れていた。何気なくそれを元に戻そうとするのだが、うまくいかない。本来、カチッって感じでハマるはずなのだが。

「ああ、これ違う型のやつなんだな。」

ごく自然に、そう納得した。が、少しして気付いた。

「んなわけあるかー!!」

安全に空を航行するための高度な技術を結集させた航空機において、リモコンが所定の位置に収納されないなどというイージーな不具合が起こるわけが無い。結局、リモコンを逆向きに突っ込もうとしていただけだった。

ああ、アフリカ色に多少染まったのかなと思って、一人で可笑しくなった。
そんな感じ。アフリカ。


追々、アフリカでのエピソードもいろいろと書いていきます。


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2012年10月29日月曜日

キリマンジャロ(5895m)

「キリマンジャロに登ろう」
この旅に出た大きなきっかけは、高校の同級生4人でタンザニアのキリマンジャロに登ろうと決めたことだった。その話が持ち上がってから1年4ヶ月後、俺たちは標高4700mの最終キャンプで円陣を組んだ。

俺、井口、オギ、たかと。そこへアフリカで出逢った3人の仲間を加えた7人編成のチームキリマンジャロは、真夜中のキャンプを出発した。ここまでですでに4泊。共に同じ道のりを歩き、文字通り同じ釜の飯を食い、シャワーも浴びずに同じテントで眠った仲間たち。今さら俺たちに言葉は必要なかった。(酸欠と高山病が結構キテて喋る元気が無かったとも言う。)

月は新月。「降ってきそうなほど」の明るい星たちが360度の満天をユニバースして、天の川が夜空に大きくミルキーウェイだった。(そのくらいすごい。)大小さまざまな岩と石の斜面を、ジグザグに折れながら進んでゆく。気温がどんどん下がってゆくのを感じる。ペットボトルの水が凍り、鼻毛も凍った。ブーツが地面を踏む乾いた音だけが聞こえる。

酸欠で頭がぼーっとしてくる。余計なことは考えられなくなる。「星がきれいだ」「水がおいしい」のような、シンプルな感覚だけしか頭が受け付けない。感じたことがそのまますーっと脳に入ってくる感じがする。そして一つ一つの感覚全てが、喜びになってゆく。音がきこえる、それすら心地良いことのように思えた。もはや、一歩一歩が嬉しかった。「生きてるって感じがする」というのは、こういうことだ。

そんな風にして完全に自分の世界に夢中になっていたので、「太陽だ!」と誰かの声がして振り返ったときは心が震えた。地平線が、燃えるように赤い。オレンジ色とかではなくて、本当の赤だ。まだまだ空は暗くて、真上を見上げれば星が輝いているというのに、地平線の部分だけ、真っ赤に燃えている。本当に何かが遠くで燃えてるんじゃないかと思うくらい真っ赤だった。お前何回真っ赤言うねんって感じだが、本当に真っ赤だったのだ。

そうしたら、体の奥底が熱くなってきて、何かが湧き上がってくるような感じがして、いつの間にか涙が出ていた。こんなことは初めてだった。「なんて綺麗な朝日だろう、登って本当に良かった。」とか、そういうことを頭で考える段階を飛ばして、理由もなくただ涙が出た。太陽の熱で自分の中の何かに火が付いたような、そんな感じがした。涙が止まらなかった。

やがて太陽が顔を出して、辺りをピンクともオレンジともつかぬような暖かい色に染めた。4日間かけて登ってきた山も、その頂にどっしりと横たわる分厚い氷河も、遠くに見える雲の海も、すべてが優しい色をしていて、大げさに言えば、地球の全てが自分たちの味方をしてくれているような気がした。そんな幸福感に包まれながら、頂上へのあと少しの道を、仲間と共に一歩一歩踏みしめてゆく。「みんなで来れて本当よかった。」心からそう思った。幸せだ。幸せだ!ありがとう!!





2012年9月18日 AM7:12 キリマンジャロ・ウフルピーク(5895m)登頂。
ここは、アフリカ大陸で最も高い場所だ。

SPECIAL THANKS!!
恋愛体質(笑)・ユキホ
意外と高所恐怖症・トモさん
言いまつがいキョーコ・キョーコさん



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2012年10月28日日曜日

ジャンボ!

自分は、あまり小さな子供が好きではない。
理由は単純で、子供の相手をするのはとても疲れるからだ。端から見ている分には可愛いのだけれど、彼らを楽しませようとすると大変だ。子供は飽きないから、遊び相手を始めると終わりが無い。エンドレスだ。こっちが先に疲れてしまう。

そんな自分だが、アフリカの子供たちとの触れ合いは楽しかった。
「ツーリスト」と「ローカル」いう距離感がちょうど良い。自分が訪れたアフリカの地域のほとんどでは英語が通じたが、基本的に子供達は簡単な英語しか知らない。ほぼ言葉が通じないと言って良い。だから、相手をするにしてもほんの表面的で、一時的なコミュニケーションにならざるを得ない。

例えばこんな風だ。
キッズ「ジャンボーッ!!」
俺「ジャンボジャンボ!」
キッズ「キャーキャーワーワー(大喜び)」

これが本当に可愛い(笑)

特に田舎の方へ行くと面白い。
たいていウシやヤギやニワトリがその辺を歩いているような、のどかな雰囲気だ。都会の子供達と違って、「すごく大きな荷物を背負った外国人が歩いている!」というのはビッグイベントなのかもしれない。みんな目の色を変えてこっちへ走ってくる。見ているこっちが笑ってしまうくらい興奮して「ジャンボーーッ!!」と絶叫する子供もいる。

もちろんいろんな子がいる。こっちをチラチラ見ながら洗濯物を干している女の子がいたので「ジャンボ~」と声をかけてみたら、「待ってたよ!」という感じで「・・・ジャンボ?」とはにかみ笑いを返してくれた。「はんっ、外人、俺はお前のこと、別に珍しくもなんとも、ぜんぜんないんだぜ!」とでも言いたげに、クールな「ジャンボ!」を返してくる少年もいる。

ぼったくり料金を平気でふっかけてくるタクシーのおっさんや、ふてぶてしさ極まりない態度でバスの隣席にケツをねじ込んでくるおばさんも、昔はこんなに可愛い子供たちだったのかと思うと少し可笑しい。

「ジャンボ!」
スワヒリ語の、最もポピュラーでオールラウンドな挨拶。 もうスワヒリ語圏を抜けてしまったので久しく耳にしていないけれど、子供達の明るい笑顔と声はずっと忘れない。





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2012年10月27日土曜日

バオバブと夕日



マラウイ湖のチズムル島に12日間滞在した。 
ここは何も無いところで、毎日イモばかり食っていた。茹でたり、揚げたり、茹でて潰して揚げたりして。

この島にはバオバブの木が多い。
毎日サンセットの時間が近づいてくると湖で泳ぎ、それから陸に上がって体を乾かし、大きなバオバブに落ちる夕日を待った。ある日は音楽を聴きながら、ある日はビールを飲みながら。

ある日、いつもより夕日が綺麗だった。薄らとたなびく雲を、線香花火みたいな色をした太陽が横切って地平線へと落ちてゆく。空はゆっくりと、しかし劇的に色を変える。そこへバオバブを重ねてみると、まるで空からバオバブのシルエットを切り取ったみたいだ。切り絵アートのように。

毎日イモばかり食っていたせいで、想像力が普段よりも豊かになっていたのかもしれない。 
バオバブの木に、日本の木々が重なって見えた。  

まずは紅葉のように真っ赤に燃える。そこから赤みが引いてゆき、次第にオレンジ、金色へと色を変える。今度はイチョウみたいだ。次にキラキラした金色の輝きが少し褪せたかと思うと、今度はほんのりとピンク色が差してくる。ああ、桜だ。春の空気が感じられる程に暖かな色だ。すると今度は薄紫の気配が。街灯の下の夜桜は、あっという間に梅雨の霧雨けむるアジサイに。それも徐々に彩りを失ってゆき、ついには冬の暗い吹雪の中にかき消されるようにして夜へ溶けた。

このとき(毎日イモばかり食っていたせいもあって)心から日本を恋しく思った。
日本の自然には、アフリカの自然には無い「何か」がある。この「何か」はどうしても言葉にすることが出来ない。言葉にならないからこそ「何か」で在り得るような気もする。アフリカの自然は日本の比でないくらいにスケールが大きく、美しい。でも「何か」が決定的に欠けている。

鍋で例えるなら「ダシ」だ。アフリカは具材豪華で見た目華やか、日本は豆腐とネギと白菜だけ。でもアフリカには「ダシ」が欠けている。そんな感じ。そんな感じの「何か」が、日本にはある。人の心の最も繊細な部分に訴えかけてくるような、微妙な「何か」だ。

そんな「何か」が息づく日本に生まれ、「何か」を感じる事ができる日本人であること。
最近、「Where did you come from?」に「I'm from Japan.」と答えることが日に日に誇らしくなってきている。



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2012年10月7日日曜日

チブク

マラウイ。
マラウイ湖という大変デカい湖がある国だ。 ンカタ・ベイという町の宿にテントを張って生活している。 「ベイ」なので、テントの目の前は湖。 水平線の向こうにはひたすら水平線、寄せて返す波はまるで海だ。 町の人間は皆優しくフレンドリーだし、ローカルの食堂で食べる湖の魚は日本基準で評価しても美味い。 ケニアで買った中古のシューズを履いて町を走れば、横目に湖が美しい。

いい場所だ。あとは美味いビールがあれば完璧だ、などと思いながら町を歩いていると、何やら他と雰囲気の違う一軒の店が。 店の軒先に、見た事のないデザインの紙パックが沢山捨てられている。しかも、全部同じやつだ。 昼過ぎの中途半端な時間帯にも関わらず、薄暗い店内にはそこそこ人が入っているではないか。 落ちている紙パックを見ると「Chibuku」とある。

チブク。マラウイのローカルビールだ。 店の奥には紙パックが積まれているのが見える。どうやらここは「チブク屋」のようだ。これしか売っていない様子だ。 冷蔵庫の気配は無いので、常温販売だろう。紙パックに入った常温のビール。紙パックに入った常温のビールだ。

店の中へ入ると、オッサン達は皆その紙パック片手に上機嫌。 なるほどなるほど、地元ではどうやら人気がありそ、と思った瞬間、嗅いだ事のある匂いがした。 飲食店内で嗅ぐ匂いとしては、あまり好ましくない匂いだ。

なんだろう・・・?

そうだ。 カブトムシのエサの匂いだ。あの樹液みたいな液体エサの匂いがする。 ちなみに、この店でカブトムシのエサは売られていない。ここで売っているのは人間が飲むビールだ。 オッサン達に「うまいの?」と聞くと「うまいぞ!」と言う。何故か含みのある笑みを浮かべながら。 しかし1リットルの紙パックで35円。破格だ。こんなに安くビールを飲めるというのは、素晴らしい。

一本買う。 紙パックの造りが甘いためか、手で持っていると若干量漏れてくる。 その手の匂いを嗅ぐと、不思議な事に焼きたてのパンの匂いがする。 樹液に、焼きたてのパン。きっとかなり香ばしいエール系の味がするに違いない。期待が高まる。

ローカル流からは外れてしまうが、やはり冷えた方がうまいに決まっているので冷蔵庫へ。 数時間後、冷蔵庫から取り出して、「shake shake」と書かれたパックをよく振る。炭酸が弱いので振っても問題ないようだ。

そしていざ開封、一気に飲んだ。 ゴクゴクやっている間は、悪くなかった。 予想外にかなりすっきりした第一印象と、微炭酸が喉を流れていく感覚が心地よい。爽やかと言ってもいいレベルだ。

しかしどうだろう、最後の「ゴクッ」が終わってビールの流れが止まると、途端に口の中にゲロの味が広がるのだ。 それはまるで、飲み会で「パフォーマンスとしてのビール一気飲み」をした後、一人密かにトイレに入り、指を喉に突っ込んで意図的に吐くゲロ。 まだ吸収されていないビールの割合が高い「胃液のビール割り」ゲロの味がする。

あの、かなり限定された状況でしか味わえない味を再現・製品化するとは、極めて前衛的だ。 また、パッケージに「INTERNATIONAL BEER」と堂々記載するギャグも、なかなかにユニークである。

マラウイのローカルビール・チブク。



この素敵な国に訪れた際には是非一度、ご賞味あれ。


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2012年9月24日月曜日

ケニア山(4985m)

9月4日の話。
ケニア・ナイロビの宿に滞在していた。 敷地内のテントサイトに、現地で買った1人用テントを張り、そこで寝泊まりする。宿泊費は一泊500円ちょっと。宿に泊まる他の日本人とも仲良くなった。毎晩ビールを飲みながら1箱80円の煙草を吸って、アホな会話に腹を抱えて笑う、気ままな毎日だ。

そんなケニアでの生活に別れを告げて、キリマンジャロが待つタンザニアへの移動を明日に控えた、ある日の夕方のこと。宿のレセプションの辺りをフラフラしていると、たくさんの荷物をくくり付けた自転車に乗った一人の男がやって来た。 彼の名前はケンタさん。ひどく汚れた服に、長く伸びたあご髭。飾った所は一切見受けられない。唯一、腕に入った和彫りが印象的な、いかにも旅人という風貌の人だ。ケニア山に登ってきた帰りだと言う。夕飯の時間、登山の話を聞かせてくれた。

登山最終日、いわゆる頂上へのアタックの日は、夜中にキャンプを出発して登る。頂上から日の出を見るためだ。その時に見た星空が、とても感動的だったと話してくれた。
「すごく寒いんだけど、星空が本当に綺麗でさ。そこへ流れ星が一本すーっと流れたとき、思わず泣いちゃったよね。僕、アフリカへ来てから初めて泣いたよ。」
彼の話し方、表情、今まで会ったどの人よりも優しいと思った。ケニア山それ自体のみならず、彼の話がとにかく魅力的だった。
「ああ、幸せだなって感じると、次に来るのは感謝なんだよね。こうして旅してるのを応援してくれてる人に。ありがとうって。」

もう、頭の中はケニア山でいっぱいだった。
ケニア山について、「キリマンジャロに次いでアフリカ大陸で二番目に標高が高い」という以外の情報は何も知らなかったが、登らずにはいられなくなってしまった。翌日タンザニアへと共に発つ予定だった仲間達には「わりィ、俺ケニア山登ってくるわ~。」と一言。

食パンを二斤(片方はカビ生えてて食べられなかった。)、ビスケットを二箱、ハチミツを一本、インスタントラーメンを五個。それから水と着替えと寝袋をバックパックに詰め込んで、ケニア山麓の街・ナロモルへと向かうマタトゥ(乗り合いのバスのような交通手段。車種はだいたいハイエース。)に乗り込んだ。

世界遺産・ケニア山国立公園の入山料$220だけを支払い、ガイドやポーター(荷物を持って登ってくれる人のこと。)は雇わず。質素な食事にテント四泊の行程。酸素が薄くなり始める4000m台、毎日決まって昼過ぎから降り始める雨とアラレ、「川下りか」とツッコミたくなる湿地帯での下山、雪と氷に覆われた頂上付近の岩場・・・。危険でこそなかったけれど、体力的・精神的にハードな道のりを超えた先にあった景色は最高だった。

そして何より強く感じたのは感謝だった。
ハードな道のりを越えて行ける健康な身体は、両親をはじめ多くの人たちの支えがあってこその宝物だ。誇りだ。自分はもっともっとハードな道を越えて行ける。その先にある最高の風景を見るために、今この瞬間を強く厳しく感謝に生きようと思った。鋭い稜線の向こうに輝く夜空の月のように。


写真撮影は、ナイロビの宿で出逢い一緒にケニア山に登ってくれたバックパッカーのトモさん。一人じゃきっと登れなかった。本当に感謝。ありがとうございます。



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2012年7月4日水曜日

ガソリンスタンド

ガソリンスタンドでバイトしている。

車通りもさほど多くない片側1車線の道路沿いにあるスタンドで、俺は客を待つ。
バイトを始めてわかったが、スタンドでは「客を待つこと」が大切な仕事なのだ。
通りの車がウインカーを出して速度を落としたら、給油口のついている位置を確認して誘導する。
この誘導をスムーズに行うため、絶えず道路に意識を配りながら「待っている」のだ。
積極的待機である。アクティブスタンバイである。まあどうでもいい。

問題は、客が全然来ないことだ。

ひどい時は1時間に1台しか来ない。
「やーめりゃいいんだよぉこんなのぉー」
ぶつぶつ独り言で文句を垂れながら額の汗を拭う。
右から車が走って来ては左へと走り去ってゆき、左から車が走って来ては右へと走り去ってゆく。
ナンバーの上2ケタと下2ケタの差を暗算して暇つぶしを試みるが、
そもそも正解したのかどうかが自分ではわからないのですぐにやめた。


仮に客が来たとしよう。

「いらっしゃいませ」
「レギュラー、満タン、現金」
「かしこまりました」

客に言われた通り「レギュラー」のボタンを押して給油ノズルを車に突っ込む。
程なくして給油は終わり、機械は勝手に止まる。
給油ノズルを車から抜いて、客から現金を受け取る。

そして俺は「セルフいけやボケー!!」と心の中で叫びながら、
「ありがとうございましたー!!」と最高の態度でお客様をお見送りするのだ。


「油を売っている場合ではない」とは、まさにこの事である。



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2012年5月16日水曜日

[小説]ニートはBARにいる

三、四両ほどの短い電車からホームへと降りてゆくまばらな乗客たちは、みな疲れきった顔をしていた。
改札を抜けると、タクシーの排気ガスと春の夜の空気が混ざり合った匂いがする。
長い一日が終わり、夜の街が目を覚ます前の、独特な匂いだった。

ニートはパーカーのポケットに両手を突っ込んだまま俯き加減に歩いた。

駅前の広い通りを少し入った所に、ぽつんと一軒、バーが佇む。

「BAR Bordeaux」

蔦の絡まった扉に掛けられた木製の看板にはイタリック体の店名が焦がしてあり、
それを今にも消えそうなランプの灯りが照らしていた。

「ボーデュアウクス。」

そう呟くと、ニートは建てつけの悪い扉に手をかけた。

「カランコロン」
「いらっしゃいませ。」
「」
「こちらのお席へどうぞ。」
「どうも。」

薄暗い店内にはどんよりと沈んだ空気が淀み、オーディオが流すサックスの音色はひどくくすんで聞こえた。
カウンターの椅子に腰掛けると、バックバーにきちんと並べられた酒瓶を眺めた。
磨かれたグラスは眩いほどに透明で、おしぼりのタオルからは何かの良い香りがする。
ニートは感心した。

苺を二粒とチーズを二切れ、それからクラッカーを一枚。
バーテンダーはそれらを手際よく皿に盛り付けてニートの前に出した。
ニートは一瞬「まだ注文していないのですが」と伝えようとして、やめた。
きっとバーではお決まりの、粋な何かなのだろう。

ジントニックを注文すると、ニートは煙草に火を付けた。
ゆっくり煙を吸い込むと、カウンターの向こう斜め上の、暗い宙に向かって吐き出した。
天井に埋め込まれたダウンライトの光に白く拡散する煙を睨み、ニートは何か思おうとしたが、何も思いつかなかった。

「ライムは搾りますか?」
「ええ。たっぷりと。」
「今日はお仕事で?」
「いえ、今日は休みでした。」
「いいですね、平日お休み。」
「はは。」
「しかし、まだ五月というのに暑い。まったく、今日は皆半袖でしたよ。」
「半袖?」
「ええ。」
「今日はずっと家にいたもので、気付きませんでしたよ。」
「それがいい。せっかくのお休みです。」
「はは。」

ジントニックを一気に半分ほど飲んだ。ライムを搾りすぎたなと後悔した。

ニートは二本目の煙草に火をつけると、改めて店の中を見渡した。
十席ほどあるカウンターの一番奥では、サラリーマン風の男が黙ってバーボンを飲んでいる。
グラス半分のジントニックで少し良い気分になっていたニートは、残りの半分を一気に飲み干すと男に話しかけてみた。

「その腕時計は、どこのですか?僕のと同じかもしれない。」
「タグ・ホイヤーです。」

会話はそれで終わった。

ニートは気を取り直して三本目に火をつけ、バーボンを注文した。
バーテンダーがアイスピックで氷を突いているのをぼんやり眺めながら、結露した空のグラスを指で撫でる。

ニートは、猫のことを思い出していた。
昨日、ニートは自宅近くの神社へ行った。用は無い。なんとなく、だ。
石段に腰掛けて何をするでもなく煙草をふかしていると猫がやってきた。
白くて、大きな猫だ。白くて大きいこと以外の特徴は忘れてしまった。
猫はニートの側まで近寄ってくると、大きなあくびを一つしてから、

ここまで思い出したところでバーテンダーがバーボンのオン・ザ・ロックを差し出した。

「ありがとう。」

ニートはそう言うと煙草の火をもみ消してそれを一口飲んだ。
猫のことについて、それ以上思い出す気はもう失せてしまった。
猫のことに限らない、大抵のことがそうだ。
ニートはニヒルな苦笑を浮かべた。

「カランコロン」

扉が開いて、一人の女が店に入って来た。
女がニートの二つ隣の席に座ると、シャンプーと香水と、女自身の甘い匂いが混ざって香った。
ニートは勃起した。

「スティンガー」

女はくすぐったくなるほど色気のある声でスティンガーをオーダーした。
ニートのスティンガーミサイルはアウト・オブ・オーダーだった。

ニートはバーボンを一気に飲むと、とびっきりキザな発音で「Shall We Dance?」と意味も無く独りでつぶやいた。
それから幾度となく「All right, All right」とつぶやき、バックバーに並んだカンパリのビンに向かってウインクをしてから、女に話しかけた。

「女性が一人でスティンガーだなんて、とても素敵だ。君の『毒針』、ずいぶん鋭いと見たね。」

まず第一に、ニートは無駄に洋画を見すぎるというきらいがある。
第二に、実際の女性経験があまりにも少ない。
そして第三に、かなり酔っていた。

しかし振り向いた女を見て、事態がそれほどAll rightではないことをニートは悟った。
彼女は大変な不細工であったばかりでなく、自分よりも二十は年上であるように思われた。
年不相応に身に纏った派手な洋服と化粧は、およそまがまがしいと言うべきものであった。

「ふふ。ねぇ、わたし、いくつに見える?」

タグ・ホイヤーのサラリーマンとバーテンダーが顔を見合わせた。

ニートは、死んだ。



END


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