マラウイ。
マラウイ湖という大変デカい湖がある国だ。
ンカタ・ベイという町の宿にテントを張って生活している。
「ベイ」なので、テントの目の前は湖。
水平線の向こうにはひたすら水平線、寄せて返す波はまるで海だ。
町の人間は皆優しくフレンドリーだし、ローカルの食堂で食べる湖の魚は日本基準で評価しても美味い。
ケニアで買った中古のシューズを履いて町を走れば、横目に湖が美しい。
いい場所だ。あとは美味いビールがあれば完璧だ、などと思いながら町を歩いていると、何やら他と雰囲気の違う一軒の店が。
店の軒先に、見た事のないデザインの紙パックが沢山捨てられている。しかも、全部同じやつだ。
昼過ぎの中途半端な時間帯にも関わらず、薄暗い店内にはそこそこ人が入っているではないか。
落ちている紙パックを見ると「Chibuku」とある。
チブク。マラウイのローカルビールだ。
店の奥には紙パックが積まれているのが見える。どうやらここは「チブク屋」のようだ。これしか売っていない様子だ。
冷蔵庫の気配は無いので、常温販売だろう。紙パックに入った常温のビール。紙パックに入った常温のビールだ。
店の中へ入ると、オッサン達は皆その紙パック片手に上機嫌。
なるほどなるほど、地元ではどうやら人気がありそ、と思った瞬間、嗅いだ事のある匂いがした。
飲食店内で嗅ぐ匂いとしては、あまり好ましくない匂いだ。
なんだろう・・・?
そうだ。
カブトムシのエサの匂いだ。あの樹液みたいな液体エサの匂いがする。
ちなみに、この店でカブトムシのエサは売られていない。ここで売っているのは人間が飲むビールだ。
オッサン達に「うまいの?」と聞くと「うまいぞ!」と言う。何故か含みのある笑みを浮かべながら。
しかし1リットルの紙パックで35円。破格だ。こんなに安くビールを飲めるというのは、素晴らしい。
一本買う。
紙パックの造りが甘いためか、手で持っていると若干量漏れてくる。
その手の匂いを嗅ぐと、不思議な事に焼きたてのパンの匂いがする。
樹液に、焼きたてのパン。きっとかなり香ばしいエール系の味がするに違いない。期待が高まる。
ローカル流からは外れてしまうが、やはり冷えた方がうまいに決まっているので冷蔵庫へ。
数時間後、冷蔵庫から取り出して、「shake shake」と書かれたパックをよく振る。炭酸が弱いので振っても問題ないようだ。
そしていざ開封、一気に飲んだ。
ゴクゴクやっている間は、悪くなかった。
予想外にかなりすっきりした第一印象と、微炭酸が喉を流れていく感覚が心地よい。爽やかと言ってもいいレベルだ。
しかしどうだろう、最後の「ゴクッ」が終わってビールの流れが止まると、途端に口の中にゲロの味が広がるのだ。
それはまるで、飲み会で「パフォーマンスとしてのビール一気飲み」をした後、一人密かにトイレに入り、指を喉に突っ込んで意図的に吐くゲロ。
まだ吸収されていないビールの割合が高い「胃液のビール割り」ゲロの味がする。
あの、かなり限定された状況でしか味わえない味を再現・製品化するとは、極めて前衛的だ。
また、パッケージに「INTERNATIONAL BEER」と堂々記載するギャグも、なかなかにユニークである。
マラウイのローカルビール・チブク。
この素敵な国に訪れた際には是非一度、ご賞味あれ。
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