2012年10月29日月曜日

キリマンジャロ(5895m)

「キリマンジャロに登ろう」
この旅に出た大きなきっかけは、高校の同級生4人でタンザニアのキリマンジャロに登ろうと決めたことだった。その話が持ち上がってから1年4ヶ月後、俺たちは標高4700mの最終キャンプで円陣を組んだ。

俺、井口、オギ、たかと。そこへアフリカで出逢った3人の仲間を加えた7人編成のチームキリマンジャロは、真夜中のキャンプを出発した。ここまでですでに4泊。共に同じ道のりを歩き、文字通り同じ釜の飯を食い、シャワーも浴びずに同じテントで眠った仲間たち。今さら俺たちに言葉は必要なかった。(酸欠と高山病が結構キテて喋る元気が無かったとも言う。)

月は新月。「降ってきそうなほど」の明るい星たちが360度の満天をユニバースして、天の川が夜空に大きくミルキーウェイだった。(そのくらいすごい。)大小さまざまな岩と石の斜面を、ジグザグに折れながら進んでゆく。気温がどんどん下がってゆくのを感じる。ペットボトルの水が凍り、鼻毛も凍った。ブーツが地面を踏む乾いた音だけが聞こえる。

酸欠で頭がぼーっとしてくる。余計なことは考えられなくなる。「星がきれいだ」「水がおいしい」のような、シンプルな感覚だけしか頭が受け付けない。感じたことがそのまますーっと脳に入ってくる感じがする。そして一つ一つの感覚全てが、喜びになってゆく。音がきこえる、それすら心地良いことのように思えた。もはや、一歩一歩が嬉しかった。「生きてるって感じがする」というのは、こういうことだ。

そんな風にして完全に自分の世界に夢中になっていたので、「太陽だ!」と誰かの声がして振り返ったときは心が震えた。地平線が、燃えるように赤い。オレンジ色とかではなくて、本当の赤だ。まだまだ空は暗くて、真上を見上げれば星が輝いているというのに、地平線の部分だけ、真っ赤に燃えている。本当に何かが遠くで燃えてるんじゃないかと思うくらい真っ赤だった。お前何回真っ赤言うねんって感じだが、本当に真っ赤だったのだ。

そうしたら、体の奥底が熱くなってきて、何かが湧き上がってくるような感じがして、いつの間にか涙が出ていた。こんなことは初めてだった。「なんて綺麗な朝日だろう、登って本当に良かった。」とか、そういうことを頭で考える段階を飛ばして、理由もなくただ涙が出た。太陽の熱で自分の中の何かに火が付いたような、そんな感じがした。涙が止まらなかった。

やがて太陽が顔を出して、辺りをピンクともオレンジともつかぬような暖かい色に染めた。4日間かけて登ってきた山も、その頂にどっしりと横たわる分厚い氷河も、遠くに見える雲の海も、すべてが優しい色をしていて、大げさに言えば、地球の全てが自分たちの味方をしてくれているような気がした。そんな幸福感に包まれながら、頂上へのあと少しの道を、仲間と共に一歩一歩踏みしめてゆく。「みんなで来れて本当よかった。」心からそう思った。幸せだ。幸せだ!ありがとう!!





2012年9月18日 AM7:12 キリマンジャロ・ウフルピーク(5895m)登頂。
ここは、アフリカ大陸で最も高い場所だ。

SPECIAL THANKS!!
恋愛体質(笑)・ユキホ
意外と高所恐怖症・トモさん
言いまつがいキョーコ・キョーコさん



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2012年10月28日日曜日

ジャンボ!

自分は、あまり小さな子供が好きではない。
理由は単純で、子供の相手をするのはとても疲れるからだ。端から見ている分には可愛いのだけれど、彼らを楽しませようとすると大変だ。子供は飽きないから、遊び相手を始めると終わりが無い。エンドレスだ。こっちが先に疲れてしまう。

そんな自分だが、アフリカの子供たちとの触れ合いは楽しかった。
「ツーリスト」と「ローカル」いう距離感がちょうど良い。自分が訪れたアフリカの地域のほとんどでは英語が通じたが、基本的に子供達は簡単な英語しか知らない。ほぼ言葉が通じないと言って良い。だから、相手をするにしてもほんの表面的で、一時的なコミュニケーションにならざるを得ない。

例えばこんな風だ。
キッズ「ジャンボーッ!!」
俺「ジャンボジャンボ!」
キッズ「キャーキャーワーワー(大喜び)」

これが本当に可愛い(笑)

特に田舎の方へ行くと面白い。
たいていウシやヤギやニワトリがその辺を歩いているような、のどかな雰囲気だ。都会の子供達と違って、「すごく大きな荷物を背負った外国人が歩いている!」というのはビッグイベントなのかもしれない。みんな目の色を変えてこっちへ走ってくる。見ているこっちが笑ってしまうくらい興奮して「ジャンボーーッ!!」と絶叫する子供もいる。

もちろんいろんな子がいる。こっちをチラチラ見ながら洗濯物を干している女の子がいたので「ジャンボ~」と声をかけてみたら、「待ってたよ!」という感じで「・・・ジャンボ?」とはにかみ笑いを返してくれた。「はんっ、外人、俺はお前のこと、別に珍しくもなんとも、ぜんぜんないんだぜ!」とでも言いたげに、クールな「ジャンボ!」を返してくる少年もいる。

ぼったくり料金を平気でふっかけてくるタクシーのおっさんや、ふてぶてしさ極まりない態度でバスの隣席にケツをねじ込んでくるおばさんも、昔はこんなに可愛い子供たちだったのかと思うと少し可笑しい。

「ジャンボ!」
スワヒリ語の、最もポピュラーでオールラウンドな挨拶。 もうスワヒリ語圏を抜けてしまったので久しく耳にしていないけれど、子供達の明るい笑顔と声はずっと忘れない。





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2012年10月27日土曜日

バオバブと夕日



マラウイ湖のチズムル島に12日間滞在した。 
ここは何も無いところで、毎日イモばかり食っていた。茹でたり、揚げたり、茹でて潰して揚げたりして。

この島にはバオバブの木が多い。
毎日サンセットの時間が近づいてくると湖で泳ぎ、それから陸に上がって体を乾かし、大きなバオバブに落ちる夕日を待った。ある日は音楽を聴きながら、ある日はビールを飲みながら。

ある日、いつもより夕日が綺麗だった。薄らとたなびく雲を、線香花火みたいな色をした太陽が横切って地平線へと落ちてゆく。空はゆっくりと、しかし劇的に色を変える。そこへバオバブを重ねてみると、まるで空からバオバブのシルエットを切り取ったみたいだ。切り絵アートのように。

毎日イモばかり食っていたせいで、想像力が普段よりも豊かになっていたのかもしれない。 
バオバブの木に、日本の木々が重なって見えた。  

まずは紅葉のように真っ赤に燃える。そこから赤みが引いてゆき、次第にオレンジ、金色へと色を変える。今度はイチョウみたいだ。次にキラキラした金色の輝きが少し褪せたかと思うと、今度はほんのりとピンク色が差してくる。ああ、桜だ。春の空気が感じられる程に暖かな色だ。すると今度は薄紫の気配が。街灯の下の夜桜は、あっという間に梅雨の霧雨けむるアジサイに。それも徐々に彩りを失ってゆき、ついには冬の暗い吹雪の中にかき消されるようにして夜へ溶けた。

このとき(毎日イモばかり食っていたせいもあって)心から日本を恋しく思った。
日本の自然には、アフリカの自然には無い「何か」がある。この「何か」はどうしても言葉にすることが出来ない。言葉にならないからこそ「何か」で在り得るような気もする。アフリカの自然は日本の比でないくらいにスケールが大きく、美しい。でも「何か」が決定的に欠けている。

鍋で例えるなら「ダシ」だ。アフリカは具材豪華で見た目華やか、日本は豆腐とネギと白菜だけ。でもアフリカには「ダシ」が欠けている。そんな感じ。そんな感じの「何か」が、日本にはある。人の心の最も繊細な部分に訴えかけてくるような、微妙な「何か」だ。

そんな「何か」が息づく日本に生まれ、「何か」を感じる事ができる日本人であること。
最近、「Where did you come from?」に「I'm from Japan.」と答えることが日に日に誇らしくなってきている。



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2012年10月7日日曜日

チブク

マラウイ。
マラウイ湖という大変デカい湖がある国だ。 ンカタ・ベイという町の宿にテントを張って生活している。 「ベイ」なので、テントの目の前は湖。 水平線の向こうにはひたすら水平線、寄せて返す波はまるで海だ。 町の人間は皆優しくフレンドリーだし、ローカルの食堂で食べる湖の魚は日本基準で評価しても美味い。 ケニアで買った中古のシューズを履いて町を走れば、横目に湖が美しい。

いい場所だ。あとは美味いビールがあれば完璧だ、などと思いながら町を歩いていると、何やら他と雰囲気の違う一軒の店が。 店の軒先に、見た事のないデザインの紙パックが沢山捨てられている。しかも、全部同じやつだ。 昼過ぎの中途半端な時間帯にも関わらず、薄暗い店内にはそこそこ人が入っているではないか。 落ちている紙パックを見ると「Chibuku」とある。

チブク。マラウイのローカルビールだ。 店の奥には紙パックが積まれているのが見える。どうやらここは「チブク屋」のようだ。これしか売っていない様子だ。 冷蔵庫の気配は無いので、常温販売だろう。紙パックに入った常温のビール。紙パックに入った常温のビールだ。

店の中へ入ると、オッサン達は皆その紙パック片手に上機嫌。 なるほどなるほど、地元ではどうやら人気がありそ、と思った瞬間、嗅いだ事のある匂いがした。 飲食店内で嗅ぐ匂いとしては、あまり好ましくない匂いだ。

なんだろう・・・?

そうだ。 カブトムシのエサの匂いだ。あの樹液みたいな液体エサの匂いがする。 ちなみに、この店でカブトムシのエサは売られていない。ここで売っているのは人間が飲むビールだ。 オッサン達に「うまいの?」と聞くと「うまいぞ!」と言う。何故か含みのある笑みを浮かべながら。 しかし1リットルの紙パックで35円。破格だ。こんなに安くビールを飲めるというのは、素晴らしい。

一本買う。 紙パックの造りが甘いためか、手で持っていると若干量漏れてくる。 その手の匂いを嗅ぐと、不思議な事に焼きたてのパンの匂いがする。 樹液に、焼きたてのパン。きっとかなり香ばしいエール系の味がするに違いない。期待が高まる。

ローカル流からは外れてしまうが、やはり冷えた方がうまいに決まっているので冷蔵庫へ。 数時間後、冷蔵庫から取り出して、「shake shake」と書かれたパックをよく振る。炭酸が弱いので振っても問題ないようだ。

そしていざ開封、一気に飲んだ。 ゴクゴクやっている間は、悪くなかった。 予想外にかなりすっきりした第一印象と、微炭酸が喉を流れていく感覚が心地よい。爽やかと言ってもいいレベルだ。

しかしどうだろう、最後の「ゴクッ」が終わってビールの流れが止まると、途端に口の中にゲロの味が広がるのだ。 それはまるで、飲み会で「パフォーマンスとしてのビール一気飲み」をした後、一人密かにトイレに入り、指を喉に突っ込んで意図的に吐くゲロ。 まだ吸収されていないビールの割合が高い「胃液のビール割り」ゲロの味がする。

あの、かなり限定された状況でしか味わえない味を再現・製品化するとは、極めて前衛的だ。 また、パッケージに「INTERNATIONAL BEER」と堂々記載するギャグも、なかなかにユニークである。

マラウイのローカルビール・チブク。



この素敵な国に訪れた際には是非一度、ご賞味あれ。


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