2013年3月18日月曜日

日々を営む悦び

The things you own end up owing you.
(お前、結局は自分の所有物に支配されてるぜ。)

これは、僕の好きな映画に登場するお気に入りのフレーズだ。欲望が消費を呼び、消費が更なる消費を加速させている現代の日本。意識せずとも、物質至上主義は人々の心理の隅々にまで浸透している。

海外セレブリティーを広告塔に起用した下着を身に着け、それを全自動化された洗濯機に放り込む。「体に良い」と謳われたサプリメントがあれば皆が喜んで飛びつくが、吉野家の牛肉がどういった屠殺過程を経て目の前の丼に盛りつけられているかは殆どの人が知らない。ネット通販でお洒落なインテリア家具を物色し、最新のヒット曲をワンクリックでダウンロードする。

世の中をより住み良くすべく築き上げられてきたシステム、技術、生活文化。その恩恵にあずかる時代の人間として、先人達に対する感謝と尊敬の気持ちは忘れてはならない。しかし、この日常の物質至上主義は果たして本当に自分の心にフィットしているのだろうか。社会全体が今後かくあるべき姿、などという意味で語るにはあまりにスケールが大きい話だが、僕個人のこれからの生き方・ライフスタイルを検討していくにあたっては大変に重要な視点だと思っている。

この視点は今回のギャップイヤーでケニア、タンザニア、マラウイなどアフリカ大陸を旅した経験から獲得したものであり、僕の中で新しい発見であった。そしてそれは、今までと同じように日本に住んで大学に通う生活、言わば「普通の日常」に暮らしていても気付くことのなかった発見であると確信している。

アフリカでの生活は、物質至上主義的に言って実にレベルの低いものであった。市場へ出かけて行き、栄養不十分に育ったと思われる形の悪い野菜を買ってくる。それから自分で集めてきた薪木で火を起こし、食事を作る。どの種類の木が薪木に適しているのかをあれこれと試し、最も効率的な火の起こし方を自然と覚えた程だ。海があればウニを拾って来て食べたし、湖があれば竹竿で魚を釣って食べた。洗濯機は無いから、汚れた服はいつも手で洗う。煙草は自分で巻くし、髪の毛は自分で切る。シャワーは水。寒い日でもお湯は出ない。インターネット環境も無いわけではないけれど、使う頻度は稀だったし、家族へのメール等、必要最小限の利用だった。

しかしそんな生活を続けているうちに、自分の内面にじわじわと芽生えてくる感情を覚えた。「日々を営む悦び」とでも言おうか、毎日を生きてゆくための行為一つ一つ全てが悦ばしいものに思えてきたのだ。「喜び」よりも「悦び」という表現の方がぴったり合っていると思う。精神的により深い「よろこび」だ。「ああ、生きている」という安らぎが心を満たし、日本にいた頃は折にふれて頭をもたげてきた「何か今ひとつ満たされない」欲求はすっかり消え失せた。しばしば「モノが無くても幸せ」などという類の文句を目に耳にするけれど、「モノが無いから幸せ」ということもあるのだなと思った。

物質至上主義社会に生きる人々は、日々繰り返される消費生活によってこの「悦び」を麻痺させられている。高価なブランド物に身を包む喜びも、テクノロジーに囲まれて生活をスマートにスピードアップさせる喜びも、フェイクだ。消費者は、それと気付かぬうちに「消費者的ライフスタイル」に騙され、すかされ、縛られている。ほとんど強迫観念的と言えるかもしれないこの束縛から少しだけ自由になれた気がする今、日本に帰ってからの自分のライフスタイルを一度真剣に考え直そうと思う。その必要性すら感じている。

"I trip to search something and go back home to find it."
(私は何かを探しに旅に出て、家に帰ってそれを見つけるのだ)

アフリカの安宿に泊まった時、部屋の壁に見つけた落書きだ。日本に帰ってからの生活の中で「日々を営む悦び」を発見してゆくことがこの旅の最終目的であると思っているし、それが今から楽しみで仕方ない。本当の意味で、豊かな人生。アフリカでの旅は、そのきっかけを与えてくれた。

スキルアップの為、将来のキャリアのため。ギャップイヤーを選択する人は明確な目的・ビジョンを持っていることが多いと思う。しかし僕は、そうでない人たちにも是非ギャップイヤーをおすすめしたい。日本とはまるで違った環境に身を置いて「search something」する、ただそれだけのことを目的にギャップイヤーを選択してみるのもありだと思う。間違いなく「ただそれだけのこと」では終わらない。この広い世界には、生き方そのものを根本から考え直させられるような経験がたくさん待っている。

http://japangap.jp/essay/2013/01/post-41.html


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